樋口佳絵「日々が聴こえる」
2019年5月18日(土)ー6月16日(日)
5月18日から始まりました、樋口佳絵さんの展覧会「日々が聴こえる」。
Cygとcartaを会場に、期間も半ばを過ぎ、6月に入りました。
盛岡、岩手、東北各地から、関東からとたくさんの方々にお運びいただいております。
感謝申し上げます。
「日々が聴こえる」について、樋口さんは下記のようにことばを寄せています。
日々の色々な音が不思議に重なって、繋がって、音楽が聞こえてしまうことがあります。
耳に残ったメロディーが離れず、無音の時にもずっと聞こえている気がすることも。
そんな時は大抵、聞いたことがあるような無いような音楽が流れていて。
それは、他の誰も聴いていない、耳鳴りみたいな私だけのミュージック。
雑音や、目で見えた事が架空の音楽を作って、日々が色付けられてる感覚。
そんな事を思いつつ描く私の絵は、音がしない、静かな空間の気がしています。
本当は歌声や音楽が流れているのだけれど、ヴォリュームが0になっているようなイメージ。
絵から何かが聴こえてきたらいいなと思います。
(展覧会に寄せて 樋口佳絵のことば)
さて、展覧会が始まり、わたしもわたしの「日々」に耳をすませてみました。
直接的に聞こえるものも、心の中で鳴っているものにも。
わたしは音楽を聴くのがとても好きなのでいろんなものを聴きますが
自然に涙が溢れてくるものや、胸が熱くなってとても嬉しくなるものや
とにかく音楽を体感して幸せや喜びを感じることがたくさんあります。
誰かが奏でてくれる音楽にどうして他人のわたしが共鳴するんだろうか、ふと
あらためて思っていたところに、久しぶりの友人からメッセージが入りました。
いろんな話をする中で、五十嵐大介さんの「魔女」を勧められ、全2巻を揃え
つい先日読み終えました。
ずっと気になりながら読んでいなかった「魔女」に、世界を構成する物質は
アトムといい、その物質の動きを説明することばがリズム、世界の全ては
アトムからできているから何にでもリズムがある、そしてそのリズムが響き合って
世界は形作られているのならば、
と描かれているページがあって、なるほど、と思いました。
先日、樋口さんのお宅におじゃまして今回の展覧会のグッズ制作のお手伝いをしてきた際に
思っていたことを訊いてみました。
「佳絵さんは日々の中にリズムを感じたり、見たりしている感覚があるのですか?」
「無意識で聴こえていたり解ってたりするけれど、気にしてみて抽出してみると「聴こえるかも?」となるような気が。その気にかける為の装置としての絵なのかなと思ったり」
「絵を描くことをしている、描き続けているのは、樋口さんの中にあるリズムや聴こえているものを抽出しているということで、そして樋口さんじゃない他人のわたしが見るときに装置になるってことですね」
「ですね、きっとそうです」
「正確には分かり合えないけれど、こういうリズムもあるんだなとか、わたしはどうかな?とか、ちょっとその装置を通って中に入ってみて、聴こえる見えてくるものに出会うかもしれないですね」
「わたしがなんとなく無意識に聴こえるリズムを形にしたのが絵で、それを見て下さる方がそのひとの再生プレーヤーで聴いている、見ている、みたいな。それぞれの鼓膜で聴き取るみたいな。
波長が違いすぎると聴こえない時もありそう、きっと。犬笛みたいに。でも、波長のツマミを調節してひとのリズムに合わせてみたりする事で初めて聴こえる、見える何かもあったりするのかも」
そんな話をした後に、2016年にCygとcartaで開催された「フラフープ論」で
モヤモヤしたものが螺旋状に昇華、消化していくことを描いていたり、
2018年の仙台TURNAROUNDでの「ちょっとした流れ星」での会場に貼られた
テキストや、会場内だけで聴ける周波数のラジオがあってイヤホンを耳につけると
音が流れていたことを思い出しました。
樋口さんの抽出作業はぶれていない、はっきりと思いました。
樋口さんはとても正直な方で、話をしている最中にどんどん繊細になっていく
時があります。
例えば展覧会の展示方法のこととか、例えば猫の保護活動のこととか。
その時に発せられることばはとても大事で、聞いたこちらが今まで考えたことも
なかった事柄に当たったり意識が拡がったり。
猫を撫でながら、お互いに饒舌ではなくとも、心にある気持ちをお互いに取り出して
伝える時間はわたしにとってとても貴重な時間です。
と同時に、樋口さんの描く絵を見る時間もまた貴重で、日々過ごす中で
ツマミを調節してみる機会でもあるのだろうなと感じています。
そして、誰かや、ものや、事のリズムと、自分のリズムが響き合った時に生まれる
喜びを貯めていけたら、そういう喜びが日々に溢れていって自分を満たしていったら
どんなときも幸福を感じられるような自分に少しずつ変わっていくのかもしれないな
とも思っています。
今回のCygとcartaの合同開催の展覧会「日々が聴こえる」は6月16日まで。
Cygに広がる樋口さんの世界に胸が踊ったり、大きな作品と向かい合ってみたり
cartaでは静かに佇む立体作品に耳を傾けてみたり。
いろんな楽しみ方ができる展覧会になっていると思います。
また、cartaでは、樋口さんの成分になっているものを体験できるよう
樋口さんがいつも読んでいらっしゃる本をお借りしております。
もちろんお手にとってお読みいただけます。
樋口さんの蔵書ですので、大事にお取扱いいただけますと嬉しいです。
そしてお知らせも。
6月からこの展覧会のグッズが増えました。
インスタレーション「声になる前の歌」の少年をモチーフにしたトートバッグが入荷しています。
樋口さんが一枚ずつシルクスクリーンで手刷りしています。
トートや巾着など形もプリントの色もいろいろありますので、ぜひご覧になってくださいませ。
そしてこの展覧の作品は全て販売しております(一部非売のものもございます)。
cartaに展示されている作品のご購入の際のお支払いについては、Cygでのカード払いも可能です。
今まで通り、cartaでの現金、後日お振込でのお支払いも承ります。
気になった方はスタッフまでお声がけくださいませ。
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ただ今、川向こうのひめくりさんではこの時期恒例のTシャツ展が開催されています。
今年は【FOOD DESIGN T-shirt FES】、「食べもの」特集。
さまざまな作家さん達の描いた「食べもの」。
好きなデザイン、Tシャツの色、インクの色を選んで、お気に入りの一枚を。
Tシャツだけでなく、トートバッグのオーダーも可能だそうです。
樋口佳絵さんはこちらにも参加されていらっしゃいます。
「日々が聴こえる」グッズのトートとはまた雰囲気の違うトートですので
この機会にどちらも楽しまれてはいかがでしょうか。
みなさまのお越しをお待ちしております。
2019.05.31|日々の手紙
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