CD「Spazieren」Henning Schmiedt

spazieren

まさにこのジャケットの写真がこのCDのことを表しています。
聴き終えると、まるで森の中を散歩したみたいな感覚の残るHenning Schmiedtのピアノの一枚。
ドイツ語で散歩という名前のCD、「Spazieren」に出会ったのは2011年。
それから何度聞いたことでしょう。
そして何度お客さまから「今かかっている音楽は?」と聞かれたことでしょう。

2011年に発表された時に、HMVのフリーペーパーにこの一枚のことを書かせていただく機会がありました。
その時に私はこんな風に書いています。

「毎日コーヒーを淹れ、そして時々森へ行くように」
今、私が音楽を聴く時間のほとんどは自分の店(小さな喫茶店)にいる時。その日の天気や空気なんかを感じて勝手な好みで店に音を流す。一日と同じ日がないように、その時の音はその時だけの音だな、と思いながら。ドイツのピアニスト、ヘニング・シュミートの『Spazieren』を初めて聴いたのは真夏のように暑かった9月の朝。ピアノの音が流れた瞬間、これから始まる一日が静かで優しい光に満ちているような気がした。ありがとう、と思った。蒸した日、どしゃ降りの日、晩秋のような日にも聴いた。どの日にもやはり光を感じた。すっとした一筋だったり暖かかったり様々な形の光。家ではどうだろうかと思って聴いた。台所にいるとき、椅子に座ってぼんやりしているとき。曲間にある無音を感じて思ったのは、「時」が愛おしいということ。「時」を眺められること。ヘニング・シュミートは毎日の普通の空を見上げたり、ため息をついたりする愛すべき今の時を大切にしている人なのだろう。それは彼の『Klavierraum』や『wolken』を聴いても感じたこと。ふと目の前に現れる美しい瞬間に気づけたことは「flau」の作品を聴くようになって起きたラッキーな出来事のうちのひとつかもしれない。冬、ベルリンで録音された『Spazieren』は、私の住む盛岡の寒すぎる冬にもきっと似合うと思っている。

この時から何度も季節は変わりましたが、いつもこの一枚はそばにあります。

ヘニングさんの音楽を初めて聴いたのは2008年に発売になった最初の「Klavierraum」からで、まさかその後にこんなことを書く機会をいただけるとは思っていなかったし、二度も盛岡で演奏会をしていただくことになるなんて。
人生とは面白いものです。

ヘニングさんがcartaを訪れてくださった時に、このCDがとてもとても小さな音で流れていました。
小さな音で、ということをとても喜んでくださいました。
聴こえてるか聴こえてないかの音量で音楽が流れている場所が好きだ、だからcartaのことをとても美しい!と。
そしてその場所に在った音楽が自分のものだったから本当に嬉しい、とにっこりされたヘニングさんが忘れられません。

きっと今もヘニングさんは、続いていく日々やその時々を愛してらっしゃるのだろうと思います。
そういう方が奏でるピアノだから、私たちの日常にも優しくそばにいてくれくれるのだろうなと思います。

flauよりリリースされているHenning SchmiedtのピアノのCDは他にも下記タイトルのお取扱いもございます。
「Klavierraum」(2008)
「wolken」(2009)<欠品中>
「Schnee」(2013)
「Walzer」(2015)

2016.10.03|日々の手紙

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